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孤独な魂

無理がた余裕

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無理がた余裕


兵士たちを代弁するという形で彼は熱に浮かされ、数十年前に死んだ若き日の戦友が乗り移ったかに激越して力強く、生き残りの老人に問いかける。映像を見た限りでは元戦友は半身に不自由を感じさせる身体を寝床に横たえていた。
 何故あのような行動に出たのか――ついに掴みかかろうとするところはさすがに相手の状態を考えれば暴挙としか言えないが、であろうとどうしてもせざるを得なかった――、それが分からない人間には後のことも、取っ組み合った事情も理解出来ないはず。O氏は一見すると、というよりもあの場の相手からは狂人じみて見えたに違いない。しかしもちろん彼は狂人なのではなく、ただ単に、純粋にと言っていいほど戦中の忌まわしい事件について究明したいとの気持ちと、さらにより強い謝罪心だけが――本当は自殺願望だったのかもしれないが――前面にあったのではないか? 
 もはや戦後四十年ののち、自らを騙し々々それすらも到底意識に上らなくなった戦友たちや、直接関係の無い家族にしてみれば、突然の不吉な訪問者の行動は「なぜ今さらそんな話を?」「わざわざ思い出させないでくれ」と戸惑い、疎ませるものだったかもしれない。
 確かに家族は実際当事者でないのだからとしても、やはり親(親世代)の体験を記憶することが望まれる責任に近いものを負っているし、老人に対して酷な言い方かもしれないが――当事者に至っては絶対にそのことを忘れたり
 番宣に関わることか近況報告の続きか分からないが、とある職業について語った彼女の態度が男性アナウンサーの気に触ったようだった。
「そんな程度でしかない仕事とは、どういう意味ですか」
 少し気圧され気味になりながらも、あくまでを失っていないと示すために自然に見える笑顔を決して絶やさない。しかし感情は抑えられず、たって口元が多少痙攣しているのだった。
「ところで、あなたのお名前はなんとおっしゃいましたか?」
 H?Aはなぜか聞いているはずのアナウンサーの名前を知ろうとする。というよりも、相手の口から再び言わせることを目的としていた。それはとりもなおさず、アナウンサーごときの名前などいちいち憶えている必要はないとの挑発的な表明でもあった。

 その質問に笑顔で簡潔に答えると、表情は数秒前の取調室の検察官然とした謹厳なものに一瞬で戻った。再び同じ趣旨の質問を繰り返す。
 心持ち体勢を整えるため、肘置きに置かれた両手で身体を椅子の奥に移動する。そして心理的優位の表現と、尊大さを遠慮無く主張するステージのちょうど中間くらいの地点にまで一気に踏み込むよう、いままで揃えていた長い脚を大袈裟に組む。
「その意味はね、あのね、ところで……あなたのお名前はなんとおっしゃいましたっけ?」
 私はH?Aは整形したのだとその時にやっと気がついた。  

 異なりし肌と髪の色持つ人々多く存しない此の国におき、彼ら逃れ出した際に得たる髪の色異なりの装飾として映らん。其処に世への逆らいを見て取り、満たされぬ物が自ら身より生まれいでた事気づかず、または目を背けるゆえに積もらん鬱せし心を感じさせもす。
 足りなき言を易く向かうところなき声と必要とせず在る肉をすら頼れぬ、老いし者の使い慣れた杖如き力によって埋め合わせんとする姿かいま見えや。いいや、逆らいなどと云う言は彼らには勿体のなき物か。其処には言い定むるべき正しきも挫かれたる其の先も無しと思しきに。
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